前回(2025年1月)は、ベロア調素材に分類されるパイル織物のパイル脱落事例を紹介しました。
今回もベロア調素材の一種であるフロック加工布のパイル脱落を紹介します。
監修/クリーニング綜合研究所
身頃の裾や袖口付近などを中心にした全体各所に穴があいたように見える部分が点在している。
穴があいたように見える部分は、パイルが脱落し、基布が露出した状態になっている。
確認はできないが、全体各所に生じていることなどから、フロック加工に使用されている接着樹脂が劣化していたことによりパイルが脱落した可能性が推測される。
特に袖口や裾など着用で繰り返し摩擦を受けるような部分は、パイルが脱落しやすい状態になっていた可能性がある。
着用による摩擦やフロック加工に使われている接着樹脂の劣化などが原因となるため、抜本的な防止対策はない。
クリーニングの受付時には、ジャケットなどであれば衿端、袖口、肘、裾まわりなど、ズボンであればウエストまわり、裾まわり、ポケット口、ファスナー付近など、着用中に摩擦を受けやすい部分や鋭角な折り目がある部分などのパイルの状態を十分に点検するとともに、利用者には接着剤の劣化などによりパイルが脱落する可能性があることを説明し、了解を得た上で処理することが必要。
特に、購入後2年以上経過している製品は、接着剤が劣化していることを前提にして対応することが望ましい。
フロック加工とは、接着剤(バインダー)を塗布した織物やニットの基布の表面に、短く切断した繊維(フロック)を静電気や機械的振動などを使って直立させた状態で植毛する加工のことで、基布、接着部分、パイル部分の3層構造になっている。
基布の全面にパイルを植毛するフロックコーティング加工と、部分的な植毛で柄を作るフロックプリント加工がある。
フロック加工の接着剤には、アクリル系樹脂を主体としたものが多く、ドライクリーニング溶剤で軟化、膨潤しやすい性質がある。
接着の強度や耐久性能などは接着剤の種類、加工方法などによって異なることや、劣化の程度を簡単に判断する方法がないことなどから、フロック加工製品についてはパイルが脱落することを前提にして対応することが望ましい。