モール糸は、特有の構造による外観と感触から秋冬物の衣料に使用されることの多い素材ですが、特有の構造ゆえの問題も抱えています。
今回は、モール糸が引き抜けた事例を紹介します。
監修/クリーニング綜合研究所
グレー色地にピンクや白色、薄いグレー色のモール糸を織り込んだジャケット。クリーニングで、モール糸が飛び出したり、引き抜けたりした。
着用などでモール糸の浮きが生じていたため、クリーニングによって揉まれるなどの物理的作用を受けることで、糸がさらに引き出されたように動き、変化が拡大した可能性が考えられる。
モール糸のパイルには方向性があり、一度引き出されると戻すことができず、一方向に移動することで変化が拡大する。
ファンシーヤーン(飾ねん糸)の一種。
モール糸はJIS規格のJISL 0205繊維用語(糸部門)で「シェニール糸」として規定されており、「シェニール織物に使う飾ねん糸。モール糸ともいう」となっている。フランス語でシェニールは「毛虫」を意味し、ビロード糸という呼び名もある。
パイルになる糸を巻き付けた2本の糸(押さえ糸と芯糸)を撚り合わせ、さらに巻き付けた糸をカットすることでパイルを作る。
モール糸は2本の糸を撚り合わせてパイルをはさみ込む構造になっている。パイルには下図のような方向性があるため、モール糸が一方向に移動することについてはクリーニングでの抜本的な改善策はない。
ただし、受付では着用等による糸の浮きなどを確認することや、洗浄の際には物理的作用が加わらないように裏返してネットに入れ、さらにネット内で動かないように固定するなどの対応が必要になる。また、モール糸の特性を利用者に説明して理解を求めることも必要。
モール糸には引き抜けの他にパイルの脱落があり、こちらも物理的な作用が主な原因となる。
パイルが脱落しないよう下図のように熱融着繊維を使って接着することで、パイルの脱落防止を図っているが、完全に防止することはできないようである。