ガスによる色の変化は、クリーニング後の保管において発生することが推測される現象です。
衣替えのこの時期、冬物衣料の返却時にガスによる変色について情報提供することは、お客様とのトラブルを回避するための有効な手段になります。
今回は、保管後に利用者から持ち込まれた事例を紹介します。
監修/クリーニング綜合研究所
婦人の礼服ジャケットの衿回り部分がオレンジ色っぽく変色し、正常部との境界は不明瞭になっている。
クリーニング後クローゼットに保管。着用しようと出したところ色の変化に気がついたため、クリーニング店に持ち込まれたもの。
保管中に酸化窒素ガスや亜硫酸ガスが作用することで、染料が分解するなどして色が変化したもの。
酸化窒素ガスは、燃料が燃焼する際に空気中の窒素と酸素が化合して発生する。家庭内では、石油・ガスストーブ、ガスコンロ、ガス湯沸し器などから発生する。また、自動車の排気ガスも変色の原因となる。
亜硫酸ガスは、石炭、重油、軽油などの燃料が燃焼する際、これらに含まれている硫黄分と空気中の酸素とが化合して発生する。主な発生源には、火力発電所、工業用ボイラー、非鉄金属精錬所などがある。
また、海洋、土壌、火山などの自然環境からも亜硫酸ガスを生成する硫黄分が放出されており、こうした硫黄分の中の相当な量が自然発生的に亜硫酸ガスなどに変化している。
反応染料を使用した綿の染色品の一部や、分散染料を使用したアセテートおよびナイロン染色品の一部などに生じやすい。
混紡や交織の場合は、ガスと反応しやすい素材のみが変色する。
ガスによる色の変化の大半は、着用時や家庭での保管中に生じている可能性が高い。しかし、利用者はこうした現象を理解していないために原因がクリーニングの処理にあるものと思い込み、結果的にクリーニング店に苦情を持ち込むものと考えられる。
したがって、苦情の防止対策としては利用者に対してガスによる事故の実態を周知し、目に見えない大気中のガスが衣料品の色の変化の原因になることを理解させる
ことが必要。
受付時には、チェックを徹底し、わずかでも変化を見つけた場合はクリーニングで明瞭化する可能性があることを伝える。
返却時には、燃焼ガスや排気ガス等によって汚染された空気が滞留しやすい場所での長期保管や放置に注意すること、ガスは水分に吸着しやすいため、雨に濡れたり
水分が付着した際は十分に乾燥させることなどのアドバイスも有効な啓発手段になる。
また、クリーニング店でもガスの作用で変色する可能性があるため、保管には十分な注意が必要。