先月号では、ベロア調素材に分類されるコーデュロイのパイルが脱落した事例を紹介しました。
今回もベロア調素材の一種であるフロック加工布のパイル脱落を紹介します。
監修/クリーニング綜合研究所
ズボン前側のファスナー下部の広範囲な部分、左右のポケット口、右後ろの玉縁ポケット下部、ファスナー周辺などのパイルが脱落して、基布が露出した状態になっている。
着用により繰り返される摩擦でパイルが脱落しやすい状態になっているところに、クリーニングによる作用が加わり完全に脱落したものと推定される。
着用による摩擦やフロック加工に使われている接着樹脂の劣化などが原因となるため、抜本的な防止対策はない。
クリーニングでの受付時には、ズボンであればウエストまわり、裾まわり、ポケット口やファスナー付近、上衣であれば衿端、袖口、肘、裾まわりなど、着用中に摩擦を受けやすい部分や鋭角な折り目がある部分などのパイルの状態を十分に点検する。
同時に、利用者には接着剤の劣化などによりパイルが脱落する可能性があることを説明し、了解を得た上で処理することが必要。
特に購入後2年以上を経過している製品は、接着剤が劣化していることを前提にして対応することが望ましい。
フロック加工とは、接着剤(バインダー)を塗布した織物やニットの基布の表面に、短く切断した繊維(フロック)を静電気や機械的振動などを使って直立させた状態で植毛する加工のことで、基布、接着剤、パイルの3層構造になっている。
基布の全面にパイルを植毛するフロックコーティング加工と、部的な植毛で柄を作るフロックプリント加工がある。
フロック加工の接着剤には、アクリル系樹脂を主体としたものが多く、ドライクリーニング溶剤により軟化、膨潤しやすい性質がある。
接着の強度や耐久性能などは接着剤の種類、加工方法などによって異なることや、劣化の程度を簡単に判断する方法がないことなどから、フロック加工製品についてはパイルが脱落する可能性があることを前提にして対応することが望ましい。