モール糸は、特有の構造による外観と感触から秋冬物の衣類に使用されることの多い素材ですが、特有の構造ゆえの問題も抱えています。
今回は、モール糸のパイルが脱落した事例を紹介します。
監修/クリーニング綜合研究所
クリーニングから戻ってきたら、カーディガンの右肩付近からウエスト付近にかけての部分や、両肘部分などの糸が細くなってしまっているとの申し出があったもの。糸が細く見える部分はモール糸のパイルが脱落して、芯糸が露出した状態になっている。
着用やクリーニング処理での物理的作用が原因でパイルが脱落したもの。確認はできないが、クリーニング前にすでに着用摩擦でパイルが脱落しかけた状態となっていたところに、クリーニングの作用が加わりパイルが完全に脱落した可能性や、摩擦などに対するパイルの強度に問題があった可能性なども考えられる。
モール糸の製造に関しては、摩擦などの物理的作用に対してパイルが抜けないように十分な強度を持たせることが望まれる。
クリーニングの受付時には、十分な点検を行うとともに、利用者にはパイルが脱落する可能性のあることを説明し、了解を得た上で処理することが必要。
ファンシーヤーン(飾撚糸)の一種。
パイルになる糸を巻き付けた二本の糸(押さえ糸と芯糸)を撚り合わせ、さらに巻き付けた糸をカットしてパイルにしてできあがる。パイルは脱落しないよう熱融着繊維を使って接着する。樹脂の量が多いほどパイルの脱落防止効果が高くなる。
しかし、樹脂の量が多くなるに従いモール糸の風合いが硬くなることから使用量が制限され、パイルの脱落を完全に防止することは困難。
また、海外製品には風合い重視のため樹脂が極端に少ない製品もあるとのこと。
クリーニングをする際は裏返して目の細かなネットに入れ、機械的作用をできる限り抑えたソフトな洗いおよび乾燥を行うことが必要。
メーカーによっては注意事項として、
等の付記表示がある場合もあり、クリーニングでの取扱いや利用者への説明資料として有効に活用したい。